教育の相乗効果: ヨルダンと日本の今後の協働展望

リーナ・アンナーブ駐日ヨルダン大使より、ヨルダンの教育の特徴や課題、日本との教育協力の可能性などについて寄稿をいただきました。
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教育は自信を生む.
自信は希望を生む.
希望は平和を生む.
(孔子 – 紀元前551–479年 )

教育は紛れもなく、一国の未来を切り開く最も重要な柱のひとつであり、経済成長、社会発展、文化的豊かさの礎となるものである。教育は国の発展を支えるツールであるのみならず、外交、とりわけ対人外交のための効果的な手段である。教育交流や連携・協働を通じて、国々は理解、尊敬、協力の精神に基づいた架け橋を築くことができる。 

豊かな歴史と文化を持つヨルダンにおいて、教育制度はこの数十年間で大きな進歩を遂げてきた。ヨルダンは、開発戦略の重要な要素として教育を最優先し、識字率や教育達成率の大幅な向上につなげてきた。この戦略では、STEM(科学、技術、工学、数学)教育とデジタルリテラシーに焦点を当て、革新的で知識に基づいた経済を育む上での教育の重要性を強調している。

アブドゥラ・ベン・ウンム・マクトゥーム盲学校 – アンマン – ヨルダン

以下において、ヨルダンの教育事情を概観するとともに、日本の教育制度との比較を明らかにし、協働の可能性のある分野を探る。

ヨルダンの教育制度は複数の段階から構成されている(図参照):

1- 4~5歳の子どもを対象とする幼稚園などを含む就学前教育は、義務教育ではないものの、近年ますますその人気が高まっている。
2- 基礎教育(初等・前期中等教育)は10年の義務教育であり、公立学校は無償である。この段階の教育は2つのサイクルに分かれている: 第1サイクル(1~3年生)では、読み書き、計算、基礎科学といった基礎的能力に重点を置き、第2サイクル(4~10年生)では、これらの基礎的能力をベースに、社会科、体育、芸術などの科目を履修する。
3- 基礎教育を修了した生徒は2年間(11~12年生)の中等教育(後期中等教育)を受ける。この段階は普通課程と職業課程に分かれており、それぞれ高等教育や労働市場に向けた準備を行う。
4- ヨルダンの高等教育部門には、数多くの公立大学と私立大学があり、学士課程、修士課程、大学院修了課程を提供している。

ヨルダンは、中東で最も高い識字率を誇り、ほぼ全員が小学校へ入学するなど、教育分野で様々な偉業を達成してきた。男女格差の是正も大きく進展し、国民は性別を問わずあらゆるレベルの教育をほぼ平等に受けられるようになった。ヨルダンの学生は、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)などの国際的な評価でも好成績を収めている。

こうした成果にもかかわらず、ヨルダンは教育制度に関するいくつかの課題に直面している。シリア難民の流入は教育制度に深刻なひずみをもたらし、教室不足・過密を引き起こしている。また、都市部と農村部、公立校と私立校の間でも、教育の質に大きな格差がある。さらに、学校で教えられる技能と労働市場のニーズとの間にミスマッチがあり、卒業生の高い失業率につながっている。

ヨルダンと日本の教育制度を比較すると、いくつかの興味深い発見がある。日本の就学前教育は3年間と長く、遊びを中心とした学習と社会化に重点を置いているのに対し、ヨルダンの就学前教育は2年間で、基礎的な読み書き能力と計算に重きを置いている。両国とも義務教育の制度はあるが、ヨルダンは10年間であるのに対し、日本は初等教育6年間と前期中等教育3年間である。日本の中等教育には、一般課程、技術課程、専門課程があり、その高度な技術・科学分野を反映している。

職業教育は、両国の教育制度にとって極めて重要な要素である。ヨルダンでは、職業教育は労働省傘下の職業訓練公社(Vocational Training Corporation:VTC)が管轄しており、実践的な技能と就職準備に重点を置いている。しかし、旧式な設備や、産業界との連携不足といった課題は依然として残っている。日本では、職業教育は一貫して中等・中等後教育段階で行われており、産業界との強力なパートナーシップと近代的な設備により、教育から雇用へのスムーズな移行が保証されている。

プリンセス・スマヤ工科大学(PSUT)

ヨルダンで実施すれば有益となり得る日本式教育はいくつもあり、中でも特活(特別活動)は、日本の教育システムのユニークな特徴であり、生徒のソフトスキルやソーシャルスキル、チームワーク、感情的知性を伸ばすために考案された、学業以外のさまざまな活動を含んでいる。クラスの集会、学校行事、クラブ活動などといった活動は、生徒たちの共同体帰属意識を育む上で非常に重要である。ヨルダンに特活を導入することで、対人スキルを高め、より幅広い早期教育を実現させることができるだろう。

現在7カ国7,100校で展開されているヤマハのスクール・プロジェクトと同様の器楽教育も、ヨルダンと日本の協力の可能性がある分野である。音楽教育は、認知能力の発達、規律、文化の理解を促進する。楽器の演奏を学ぶことは、生徒の学業成績を向上させ、精神的な安定を高め、創造性を育むことができる。音楽は認知能力を高め、創造性を育むという信念から、ヨルダンでは、学校教育の一部として器楽教育を取り入れ始めている。

タレク・ジュンディ・アラビア音楽アカデミー

教員研修プログラムは、両国にとって絶好の協働機会である。互いに交流しつつ教員研修を行うことで、ヨルダンの教員には特活や器楽教育のような全人的な(ホリスティック)教育実践を取り入れるための見識を提供し、日本の教員は、ヨルダンのインクルーシブ教育や多様性のある学級運営の経験を学ぶことができる。

カリキュラム開発もまた、協働の機が熟した分野と言えよう。ヨルダンと日本は共に協力することにより、今日の世界標準に沿ったカリキュラムを開発することができる。技術や職業訓練をカリキュラムに組み込んできた日本の経験は、ヨルダンが教材や指導法を刷新するための指針となるだろう。

学生間の交流プログラムを設けることで、文化理解を育み、学生にグローバルな視野を提供できる。こうした取り組みは、語学力を高め、教育の幅を広げ、国を超えた友情を築き、両国の学生に恩恵をもたらす。日本の文部科学省(MEXT)と、文科省奨学金やJETプログラムなどのさまざまなプログラムを通じた学術交流の重要性は、言葉に尽くしがたいものがある。こうした取り組みは、両国の学生や教師にとって、互いの教育制度を肌で感じる貴重な機会となる。

アブドゥラ・ベン・ウンム・マクトゥーム盲学校 – アンマン – ヨルダン

ヨルダンと日本は、それぞれの課題に対処するために互いの強みを活用し、教育における二国間協力から大きな恩恵を受けることになるだろう。相互学習、交流プログラム、協働的な取り組みによって、ヨルダンと日本は今後も教育制度を進化させ続け、急速に変化する世界で活躍できる人材を育むことができる。

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リーナ・アンナーブ略歴
2024年6月18日現在

リーナ・アンナーブは、2019年6月に駐日ヨルダン・ハシェミット王国大使に任命された。

2016年6月から2018年11月まで、ヨルダン観光・考古大臣を務める。

過去 25年以上に渡り、アンナーブは北米、ヨーロッパ、中東、北アフリカなどにおいて、シティバンク、ジョンソン&ジョンソン、国際通貨基金等で様々な役職を歴任。

ワシントンD.Cのジョージタウン大学にて国際政治学修士号を取得している。

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