国立大学法人福井大学では、「アフリカ・中東・アジア諸国との連携による新たな教師教育国際協働モデルの構築及びEDU-Portニッポン事業の国内還元に関する省察的調査研究」を実施しています。その一環として、令和7年1月21日(火)及び23日(木)には、附属義務教育学校7年A組において、ウガンダ及びマラウイの大学、中高教員6名と共に研究授業を実施しました。福井大学教員、福井県内の高校の教員のほか、JICA関係者、福井大学教職大学院が招聘したパキスタンの大学教授4名、新聞社の記者らが授業を参観しました。
研究授業の授業者を務めた森川禎彦教諭(福井大学教育学部附属義務教育学校統括研究主任・福井大学大学院連合教職開発研究科(連合教職大学院)客員准教授)は、令和6年10月に同僚2名とともにマラウイを訪問し、現地の中学校4校並びに教員養成校を訪れ、学校拠点の実践研究とそれを支える教員養成校の活動に参加しました。また、2校で現地の教師と一緒に研究授業も行い、互いの教育についての理解を深めました。今回の研究授業は、日本の子どもたちに社会科を指導する中で感じていた、「子どもたちにとってアフリカは遠い国で、そこでの出来事は他人事であり、なかなか学びが深まらない」という問題意識と、アフリカの取り扱いは他の地域に比べて少なく、「支援の対象である発展途上国」としての扱いに留まっている従来の社会科の課題にひとつの解決策を示すことを目的として実施されました。
1月21日(火)5時間目
この授業の一週間前、森川教諭は生徒たちに、ウガンダとマラウイがより良い国になるための課題とその解決策について考える宿題を出しました。生徒たちは各自で調べ学習を行った後、前日の社会の授業で5、6名ずつ6つのグループに分かれて、ウガンダとマラウイの社会が抱える課題とその解決策をホワイトボードに書き出しました。
本授業では、ウガンダあるいはマラウイの教員が1名ずつ、通訳とともに生徒のグループに加わりました。アフリカの教員は、生徒たちが書き出した課題と解決策に対して、自国の現状を紹介し、生徒たちの提案に対して意見や感想を伝えました。生徒たちは現地で暮らす方々の話を直接聞くことで、インターネットなどで得られる情報と、現地の実際の状況が異なることもあることを学びました。例えば「農業に依存するウガンダが水不足になる原因は政府にお金がないことなので、募金を組織的に行う」という生徒たちの考えを聞いた教員は「政府にお金がない訳ではなく、政府予算が適切に支出されないことが問題。ウガンダでは水も道路も地方の村までいきわたっている」という実際の状況を生徒たちに紹介し、農業そのものが低開発の原因ではないことを説明しました。これを聞いた生徒たちは、今まで知らなかったアフリカでのお金の流れを学びました。その結果、農業への依存を減らすだけではなく、作った作物の流通経路を整備・拡大したり、作物を加工して付加価値を付けて出荷したりすることで、農業に従事する人の収入を増やせることを学びました。アフリカの教員からは「生徒たちのアフリカに対するイメージはインターネット等の影響を強く受けており、実態を知るために彼らがアフリカを訪れる機会があれば良い」という感想も聞かれました。
生徒たちはこの授業での学びを基に、翌22日(水)にもう一度自分たちの提案を検討し、23日(木)にもう一度、アフリカの教員と一緒にウガンダとマラウイをより良い国にする方法を考えることになりました。
1月23日(木)2時間目
授業の冒頭、森川教諭は、前回の生徒たちの発表が、日本に流布するアフリカに対するステレオタイプに強く影響されていたことに気づいたことを振りかえりました。そして、今回はより積極的に、アフリカの教員から両国の実際の姿について話を聞いてみようと生徒たちに働きかけました。
生徒たちは前回に続き、6つのグループに分かれて1名ずつアフリカの教員を迎え、それぞれが考えるウガンダ及びマラウイの課題やその解決策について意見交換を行いました。ウガンダの「お金」に着目したグループでは、政府、教育、産業の側面から議論を進める中で、ウガンダが豊かな農業国であることに気づき、その良さを活かして収入を増やし、様々な課題を解決する可能性について検討しました。また、マラウイへの「投資」に着目したグループでは、マラウイの教員から、同国の豊かな自然や鉱物資源、人の温かさなどについて話を聞き、それらの魅力をSNSで発信していくことで、投資の拡大につなげられないかというアイディアが出ました。
授業の終わりに、生徒たちはホワイトボードに次のような感想を記載しました。
「僕たちがウガンダについて学んだように、より多くの人にウガンダを知ってもらうのが必要ではないかと思いました」「今まで自分たちが調べたことが合っていると思っていたけど、話し合いをして交流することの大切さがわかりました。もっとマラウイのことを発信し、私もそのお手伝いを一緒にしていきたいと思いました。マラウイの良さをたくさん知ることができました。」
ウガンダの教員からは「2回の授業を通じて、子どもたちとたくさんのディスカッションを行うことができた。このような授業は、子どもたちを力づけ、批判的思考力を養うものである。子どもたちには、世界の課題を解決する可能性がある。この経験を自分自身が携わる教員研修でも活用したい」という感想が聞かれました。
森川教諭のマラウイ訪問から始まった今回の試みは、日本の中学生が国際交流を通じて世界の課題を自分事として考える機会になると共に、ウガンダとマラウイの教員にも自国の状況を新たな視点で見直し、自らの指導方法への気付きを与えるものとなりました。