日本の科学教育コンテンツをトルコの小中学校に展開(令和4年度 応援プロジェクト:アイ・シー・ネット株式会社)

1. 概要

このプロジェクトでは、日本で使われている科学教育コンテンツをトルコの教師と協力して、トルコの初等中等教育のカリキュラムや授業に合わせて調整しています。教育キットと教授法をパッケージにして地元の学校に提供し、実験機会を増やし、仮説検証型の授業を促進し、高次思考力(分析・統合・評価)を育む理科教育の質を向上させることを目指しています。

2. 背景

トルコは中東地域で最も早く産業化に成功し、食品・繊維製品や機械などの輸出で地域の産業をリードしています。しかし、より高い付加価値の創造と競争力の向上には高度技術人材の育成が必要です。学校教育では大学入試に焦点を当てた教育が主流ですが、批判的思考力や問題解決力、創造力などを伸ばす取組も進んでいます。このプロジェクトでは、日本のSTEAM教育の強みを活かし、子供たちの思考力を強化する授業を提供し、トルコの教育の質を向上させます。

3. 「科学実験教室」パッケージの進捗

現地パートナーの協力により、トルコのカリキュラムの教材として学研の科学実験キットが導入されました。8つの実験キットの教材マニュアルを翻訳し、地元資材を使って教材を開発しました。これらの教材はパートナー校で実地検証され、2023年9月より以下の3校で本格的に導入されました。
(※トルコの学校体系は、小学校:1年生から4年生まで(グレード1~4)の4年間、中学校:5年生から8年生までの4年間(グレード5~8)までとなっている。なお、G8の生徒は高校入試準備のため参加していない)

(1) イズミール市レンクリオルマン小学校

実地検証の最初のパートナーとして2022年9月の新学期より科学実験教室の試行を始めた。2023年9月からは有料の契約を締結し、グレード(G:学年の意味。G1は日本の1年生に相当)1~4の児童合計110人に対して週1回、科学実験教室を実施している。前年度まではクラス担任が科学実験を指導していたが、準備などの負担が大きいことから、外部講師による指導へと切り替えた。校長への聞き取りでは、科学実験教室は子供たちの思考力の強化に役に立っており、子供たちは授業で学んだことを科学的現象と結び付けることができるようになってきているとのこと。
教員へのインタビュー風景

(2) ブルサ市イェディレンクル・チナール校

現在、小学校ではG1からG4までで332人、中学校ではG5からG7までで234人、合計で566人の児童生徒が科学実験教室に参加しており、3校の中では参加児童生徒数が一番多い。小学校(G1~G4)は担任制のため16名の教員が指導にあたっているが、中学校(G5~G7)は1名の理科教員が234人の生徒の指導にあたっている。授業はおおむね順調に進められているが、小学校は複数の教員で教材を共有しているため、次に教材を使用する教員のために授業後キャビネットに教材を戻している一方、中学校は1人の教員が全クラスを担当しているので、キャビネットの整理整頓がうまくできておらず、実験キットの在庫管理が難しくなっている。
学研キャビネット

(3) アラニア市ヤシャムタシャリム校

2023年1月の後期の授業から試験的に科学実験教室を導入し、9月の新学期から本格導入となった。現在、G5で27人、G6が19人、G7も19人で合計65人が参加している。1~2週間に1回、理科の授業の単元毎に科学実験教室を実施している。理科の教員はとても優秀で、積極的に授業の改善を進めている。同校は、2024年9月に開校する幼稚園と小学校での日本型教育プログラムの導入にも意欲的である。交流学習のため、日本の学校との姉妹校提携を希望している。
教員へのガイダンス風景

4. サイエンスショーの開催

アイ・シー・ネットは、科学実験教室のプロモーション活動の一環として、私立学校や市役所、NGOと協力してトルコ各地でサイエンスショーを開催しています。コロナ禍で学びへの関心が低下していた子供たちも科学に興味を持ち、大いに楽しんでいます。特に2011年に勃発した隣国のシリア危機においては、400万人を超える難民がトルコに流入し、国内各地で生活しています。アイ・シー・ネット株式会社は2016年よりトルコでシリア難民支援に関わる事業も展開していますが、2023年9月、シリア系NGOと協力して、難民の子供たちに対するサイエンスショーや折り紙教室、防災教室などを実施しました。

  • ナルルデレ市役所の協力で市内の幼稚園4園に対して開催したサイエンスショー
    (イズミール、2022年10月)
  • イズミールの私立学校で実施したサイエンスショー。空気の実験についてのクイズ
    (イズミール、2024年5月)
  • シリア系NGOの協力でシリア難民の子供たちのために実施したサイエンスショー
    (ガジアンテップ、2023年9月)

5. 防災教室

2023年2月6日、トルコ東南部とシリアでM7.8の大震災が起こりました。アイ・シー・ネットと現地法人の学研トルコはトルコに根づく日系企業として、長期的に災害からの復興に貢献したいと考えました。2023年7月からはJICAからの受託により、東南部4県(アドゥヤマン、マラティア、カフラマンマラシュ、ハタイ)のユースセンターにおいて被災地の子供たちの心のケアを行うと共に、災害の仕組みや、災害から身を守る方法、災害に強い地域づくりのための防災教室を実施しています。

  • 防災教室:地震の揺れ方についての物理的な実験デモストレーション
    (アドゥヤマン、2024年3月)
  • 防災教室:建物の耐震構造の工夫をするハタイ県イスケンデルン市の高校生たち
    (ハタイ、2024年3月)
  • 防災教室:アクションプランの議論をするカフラマンマラシュの大学生たち
    (カフラマンマラシュ、2024年3月)

6. 今後の展開

トルコ教育省はカリキュラム改定を進めており、2024年9月の新学期から新カリキュラムの試行をスタートさせると発表しました。この改定においては、従来の知識重視から脱却し、子供たちの批判的思考力、問題解決力、創造力、コミュニケーション能力などの育成を重視することになります。一方的な講義形式から脱却し、生徒が主体的に学ぶアクティブラーニング型の授業を取り入れ、ディスカッション、プロジェクト型学習、実験・実習などを強化し、ICT活用教育、STEM教育に重点をおきます。また、グローバル化に対応するため、英語を中心とした外国語教育を低学年から本格的に実施するそうです。教員は一方的な知識伝達者から、児童生徒の学習をファシリテートする役割を果たすことが求められるようになります。そのための教師訓練を強化します。トルコはこれまでの暗記中心の教育から脱却し、21世紀型スキルの育成を重視した大胆な教育改革に踏み切ろうとしています。経済発展とイノベーション創出を支える人材育成が狙いだそうです。

科学実験教室の教材は、日本からの取り寄せた場合、輸送費や輸入税も販売価格に上乗せされるため、学校側の負担が大きくなります。そのため、現地での教材開発と調達体制の整備を進めています。また、小学校の教員の理科知識不足を補うためのVOD(ビデオ・オン・デマンド)教材作成や外部講師の育成・配置に向けた検証も進めています。子供たちが科学的思考を身につけるための指導方法を強化するため、教員の能力向上を図っています。

地域のニーズに応える活動、そして持続的な事業、二つの展開を両立させながら、今後もトルコの教育の質を向上させるために努力していきます。

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