■ はじめに
2020年以降の温室効果ガス排出削減等を目指す国際枠組みであるパリ協定の目標達成には、人々の行動変容と、より一層の国際協調が必要とされています。
名古屋産業大学では、教員と学生が環境教育研究プロジェクトを編成し、2003年度から20年にわたって、身近な地域のCO₂濃度を調査し、CO₂の吸収源、排出源の影響を可視化した上で、脱炭素地域づくりのための行動を促す環境教育の教材開発と実践に取り組んできました。
近年は、CO₂吸収源対策につながる緑化木調査の普及に向けた取組を進めています。2021年度には、EDU-Portニッポン応援プロジェクトの採択を受け、ベトナムの学校教育を対象とした緑化木調査の系統的支援に着手しました。以下に、本事業の近況を紹介します。
■ 本事業の背景と目的
ベトナムでは、メコンデルタを中心に、気候変動に伴う海面水位上昇の深刻な影響を受けることが懸念されています。そのため、気候変動対策として、大規模な植樹計画も進められています。
本事業は、ベトナム・ホーチミン市の小・中学校、高等学校を対象に、緑化木調査を系統的に支援することを目的としています。具体的には、CO₂センサーを活用し、小・中学校では植物の光合成実験(写真1)を、高等学校では光合成実験の発展学習として、CO₂吸収力の高い緑化木の調査を支援します。また、日本とベトナムとの国際交流学習を支援することにより、学校間交流を通じた相互理解とグローバルシチズンシップの醸成に貢献することを目指しています。
写真1:植物の光合成実験
■ 2021年度の取組
2021年度は、高田高等学校(三重県津市)等と連携し、植物の光合成実験を収録した視聴覚教材(写真2)と授業計画の多言語版を作成しました。また、現地カウンターパートであるホーチミン市台湾学校(小・中・高の教育課程を開設)には、CO₂センサー等の測定機材を提供し、Webミーティングによる教員間の意見交換を行った上で、34名の高校生を対象に、視聴覚教材を活用したオンライン授業(写真3)を支援しました。また、現地における新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、CO₂センサーを活用した教室の換気対策についても支援を行いました。
写真2:視聴覚教材のベトナム語版
写真3:オンライン授業の様子
■ 2022年度の取組
高田高等学校では、生徒が制作した視聴覚教材を活用し、周辺の小・中学校を対象に植物の光合成実験を支援しています(写真4)。ホーチミン市台湾学校においても、現在、「ごみの焼却とCO₂の排出」をテーマに調査を行う準備を進めており、その成果を視聴覚教材に収録し、ホーチミン市内の中学校2校を対象に学習支援を行うことを計画しています。今後は、高校生による視聴覚教材の開発をテーマに、高田高等学校とホーチミン市台湾学校の生徒相互の協働的な学びを支援していきたいと考えています。
写真4:高校生による環境学習支援の様子(高田高等学校)
■ 今後の展望
ベトナムにおける2021年度の取組を踏まえ、2022年度からは、台湾においても、台湾行政院教育部の協力を得ながら、基隆市、新竹市、苗栗県、台中市、高雄市、宜蘭市の高等学校6校を拠点に、緑化木調査の普及を図る取組に着手しています。また、インドネシア・ジャカルタの高等学校とも緑化木調査の実施に向けた準備を進めています。
今後は、日本、台湾、ベトナム、インドネシアの高等学校を対象に緑化木調査を支援し、学校間交流を通じたグローバル・パートナーシップの形成に取り組んでいきます。また、高等学校を起点として、周辺の小・中学校に緑化木調査の普及を図る仕組みづくりも進めていきます。更に、将来的には、気候変動対策として森林資源の保全・活用を重視する国・地域に対しても、緑化木調査の導入、普及を目指したいと考えています。