体育を通してウガンダの未来に貢献(2019年度公認プロジェクト:日本体育大学)

活動の背景

「体育は遊ぶだけで時間の無駄。」「体育は競技エリートを発掘・育成する場だよ」

ウガンダの小学校教員から聞かれた言葉だ。

ウガンダ共和国(以下、ウガンダ)をはじめ、途上国のほとんどの小学校では、体育・音楽・図工といった情操教育が、算数や英語といった別の教科に取って変わられ全く指導されていなかったり、授業では競技力の向上のみの指導がなされていたりといった現状がある。その理由としては、試験至上主義により試験で評価されない情操教育は軽視されてしまうことや、体育の授業を受けたり指導したりすることが少なかった教員自身の経験から体育科教育の知識が不足していることが挙げられる。そこで、日本の体育科教育の良さを生かして、体育が持つ教育における価値や可能性をウガンダの教員に理解してもらい、体育の授業を実践できるようにしていくことを目標とし、本プロジェクトを開始した。

活動内容・成果

活動内容は主に2つ

① 小学校教員が使用する指導資料の作成

現行のカリキュラムの内容が現場の環境に合っておらず実施不可能であること、技能に偏った評価になっていること、目標や活動が単語のみで書かれており、多くの教員が体育を受けたり指導したりした経験がないことから、それらをイメージして授業計画を立てることが困難であることが判明した。この状況を改善すべく、ウガンダのカリキュラム(ネットボール※注)に沿って、日本とウガンダの教員が共同で以下の点を改善しながら、授業ですぐに活用できる指導資料を作成している。

    • 体育の意義や内容についての説明を追加
    • 目標と評価の4技能(関心意欲態度・思考判断・身体技能・言語技能)における基準を具体的に明記
    • 各学年の発達段階に合わせて工夫した活動内容や用具の提案
    • 活動のイラストを活用し、ルールを分かりやすく説明
    • 児童と教員の1時間での具体的な行動を示す
    • 4技能をバランス良く身につけるための授業案の作成
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図:2年生 陸上競技授業細案

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写真:ワークショップで学んだことを活かして授業実践をしている様子

② 体育指導の研修の実施:現地ワークショップや日本での研修における授業実践指導

指導資料の作成と並行して、ウガンダや日本でワークショップを実施してきた。ウガンダでは、首都近辺の3県から各1校小学校をパイロット校として選定し、その学校及び周辺の学校の教員、さらには教員養成校の教員や指導主事に対して、体育の意義や指導方法についての知識と経験を身につけるためのワークショップを行った。また、パイロット校の体育教員、教員養成校の教員等を日本に招いて、日本の体育授業を実際に観察・体験してもらう機会を設けた。そのことが、これまで持っていた体育教育に対する認識を変えることに繋がったと共に、ウガンダの体育と日本の体育の違いを認識し、良いところや改善の余地について客観的に考えるきっかけとなった。また、体育の実践をいくつか見学する中で、ウガンダの教員は、日本の教員の授業中の行動や様々な授業の工夫について関心を示し、たくさん質問をしていた。研修最後に行った模擬授業では、講義や授業見学で得た知識を生かし、カリキュラムで示されている4つ技能をうまく取り入れた授業を行っており、指導力の変化が顕著に見られた。また、帰国後には、自身で単元案や授業案を作成し、非常に高いモチベーションを持って授業に臨んでいた。

※ネットボール…バスケットボールを元にして1895年イングランドにて生まれたスポーツ。1試合2つのチーム(1チーム7人)でプレーし、選手ごとに動ける範囲が決まっており、ドリブルは禁止、コートの両端に設置されたゴールにそれぞれのチームがパスを繋いでシュートを狙う。1度のゴールで得点が1点ずつ入り、試合終了時に得点が多かったチームの勝利となります。

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写真:ルウェロ県における教員向け体育科教育ワークショップの様子

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写真:日本での研修の様子(バスケットボールの模擬授業)

日本人自身が気付かない日本の教育の良さや、逆に現地から学んだこと

ウガンダの教員が体育に対する独自のイメージを持っていたのと同様に、私たちの多くも「アフリカの子どもたちはみんな運動ができる」といったイメージを持っている。このプロジェクトを通して、アフリカの子どもたちも日本の子どもたちと同様に、授業で学んでいないことはできないということが分かった。

これまで体育の代わりに座学で学んできたウガンダの子どもたちが、運動場で力一杯活動できる体育の時間に感謝し、毎時間の新たな課題を楽しみに顔を輝かせながら運動場へ全速力で走ってきて、精一杯活動に取り組み成長する姿は、日本の教育現場にない勢いを感じた。このことは同時に、日本で実践されてきた体育の教材が、国は違えど子どもたちの学びに確実に影響を与えることができるということを示している。

また、日本の体育で大切にしている、子どもたちの社会性や認知能力の向上に焦点を当てた授業、つまり競技性を高めるための授業ではなく、「みんなが参加できる・学び合えること」を考え工夫が施された授業は、ウガンダの教員にとっては新鮮であったと同時に、非常に魅力的であったようだ。本プロジェクトに関わった教員は、日本の教員の指導技能の高さを評価し、「彼らを目指して実践を積み重ねていきたい」と研修後に話していた。

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写真:笑顔で歌いながら校庭に行進してくる子どもたち

 

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写真:ワークショップで日本の体育の授業を体験し全員で集合写真

今後の活動の展望

新型コロナ感染症の影響から約半年間、学校が閉鎖され、10月15日にようやく学校再開の目処が立った。しかしながら、ウガンダへの渡航が当分の間困難であるという状況から、ウガンダの教員のモチベーションを保ちながら日本でプロジェクトを進めていく必要がある。そこで以下の4つの活動に焦点を当てていきたいと考えている。

  1. ネットボールの指導資料とその活用方法を説明した映像資料の作成
  2. 各教員の学校での実践のフォローアップ
  3. 実践報告会の開催
  4. 普及に向けた活動のサポート

日本の小学校に協力してもらい、指導資料の内容を実際に映像化することで、ウガンダの教員の指導資料の理解促進と授業の実践に繋げる。その後、ウガンダ現地にて実践した授業の感想を報告してもらい、アドバイスをしながら指導力向上のサポートを継続して行っていく。また、可能であればプロジェクトに関わっている日本及びウガンダの教員を含めた全体での実践報告会を開催したいと考えている。そして、このプロジェクトでの学びや成果が維持されるように、教員や教育関係機関の普及活動も積極的にサポートしていきたい。

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