■事業概要
株式会社パデコは、2015年から国際協力機構(JICA)によるエジプトでの特別活動を中心とした全人的教育の導入に携わっています。特別活動に関心を有する他国や日本国内へ、その経験を還元すべく、2021年度からEDU-Portニッポン調査研究事業として、「オンライン特活による公衆衛生・SDGs課題解決教育モデルの開発」事業を開始しました。初年度となる2021年度は、コロナ禍の影響もあり、日本国内で事例集の開発や、それを公開するウェブサイトの開発、また、日本とエジプトの小学校や中高一貫校で、オンラインを通じた交流や、保健衛生に関する活動の紹介を行いました。2年目となる本年度は、世界授業研究学会(World Association of Lesson Studies: WALS)での特別活動の紹介や、マレーシアと日本をつないだハイブリッド学級会の実施など、更なる飛躍に向けて挑戦中です。
■世界授業研究学会への参加
WALS 2022大会がクアラルンプールで9月20日から22日にかけて開催されました。我々のチームとエジプトからの支援者から成る5名が参加し、エジプトでのTokkatsu導入の経験や成果を発表しました。更に、その他の機関とも協力し複数のイベントを開催しました。以下にご紹介します。
◇Tokkatsu特別セッション基調講演
本調査研究事業のパートナー機関である文京学院大学副学長恒吉僚子氏による基調講演が、「The Lesson Study of Noncognitive Learning: Lesson Study in the Japanese Model of Holistic Education Tokkatsu」と題してWALSの本会場であるマレーシア国民大学の講堂で行われました。
◇Tokkatsu特別セッション・シンポジウム
恒吉氏が座長を務め、昨年度の本調査研究事業にもご協力くださったインドネシア教育大学研究員タタン氏、エジプトでの特別活動導入を監修されている國學院大學教授杉田洋氏、JICAプロジェクトのエジプト人専門家のサファー氏、モハメド氏、そして筑波大学助教京免徹雄氏が、Tokkatsu特別セッション・シンポジウムにて発表されました。特にエジプトからは、特別活動の導入において、校内での教員の能力向上のツールとして、授業研究の手法も活用されており、それが教員間の「特別活動」だとも言えるのではという示唆がありました。
基調講演およびシンポジウム終了後の様子
◇Tokkatsu特別セッション・ワークショップ
Tokkatsuの特別セッションとして、「当番活動」と「係活動」に注目したワークショップを実施しました。ワークショップでは、前述のシンポジウムやブースなどでTokkatsuに関心を持っていただいたマレーシア、インドネシア、カンボジアなどの教員や研究者、約50名に参加いただきました。日本特別教育学会員として文部科学省視学官安部恭子氏、日本体育大学教授橋谷由紀氏、尚絅大学教授平野修氏、学校法人八王子学園なかよし幼稚園園長清水弘美氏が同セッションを担当しました。当番活動と係活動の役割や違いを説明した上で、小グループに分かれたディスカッションでは、当番活動を行うことで養われる資質について意見を出し合い、今後自分の国や学校で実際に実践してみたい係や当番の活動について話し合いました。話し合い後の質疑応答では、子供が係活動の案を出し合うポイントやエジプトでTokkatsuを導入した際の宗教上の困難等について質問があり、JICAプロジェクトのエジプト人専門家からは、特活の理念とイスラム教の教えの親和性や、活動全てをそのまま取り入れるのではなく、エジプトの文脈に合った導入を行ってきた経験が共有されました。
ワークショップの様子(冒頭説明) | ワークショップの様子(グループワーク) |
◇Tokkatsu紹介ブース
前述の基調講演やシンポジウム、ワークショップで興味を持った参加者をはじめ、多くの大学関係者や学校教員、教育行政の関係者等がブースに立ち寄り、日本式教育にかかわる情報を入手していました。特に、文部科学省作成の動画「日本の小学生の一日」(EDU-Portホームページに掲載)や、エジプトで実施された日本式教育に関する活動のVRゴーグルでの視聴は、多くの関心を集めていました。「日本式教育では子供の自主性を大切にしているから、先生は一歩引いて子供を見ているのですね」などの参加者の声が聞かれました。
ブースの様子
◇日本特別活動学会との連携
今回のWALS 2022大会への参加は、日本特別活動学会の重点課題研究プロジェクト「特別活動の海外展開に向けた国際的特質の解明」(研究代表者:椙山女学園大学教授山田真紀氏)と連携して進めました。シンポジウムでの発表、ワークショップでの活動の準備、ブースで活用した後述の国立教育政策研究所作成の映像資料の英語化などを、同研究プロジェクトと緊密な連携の下に進めました。
◇国立教育政策研究所との連携
前述のように、WALS 2022のブースでは、国立教育政策研究所作成の映像資料の紹介なども行いました。EDU-Port調査研究事業の一環として、我々のチームが同資料の英語翻訳や字幕付けを担当し、前述の日本特別活動学会の重点課題研究プロジェクトの研究者の方に監修をお願いしました。英訳された映像資料は国立教育政策研究所のHPに後日公開される予定です。
国立教育政策研究所作成「小学校特別活動映像資料」英訳の一部
■マレーシアと日本をつないだハイブリッド学級会
文京学院大学女子中学校高等学校から4名の生徒代表が7月22日にマレーシアのSetiabudi校を訪問し、Setiabudi校の生徒と、日本に残っている他の生徒とオンラインで繋いだハイブリッド学級会を実施しました。学級会では日本・マレーシアそれぞれの国でのSDGs課題として、保健衛生と環境問題に関する現状や課題を共有し、今後の改善のために何ができるのかをグループに分かれて話し合いました。小グループでの話し合いの後は、全体でどのような話し合いが行われたかを共有しました。今後、この話し合いの結果を基に、それぞれの学校で実際にどのような活動を行ったのか、両校で振り返りのセッションが設けられる予定です。
終了後の集合写真 | 360度カメラを利用したハイブリッド学級会の様子 | オンラインによる小グループでの話し合いの様子 |
■今後の予定
◇エジプトと日本をつなぐオンラインイベント
昨年度に続き、本年度もオンラインで実施する国境を超えた特別活動に挑戦する予定です。中学高校部門では、昨年度同様、文京学院大学女子中学校高等学校とエジプトのEl Galaa校が、オンライン合同学級会を実施予定です。既に両校の生徒や教員がメール等で直接コミュニケーションを始めています。小学校部門では、JICA中部センターのイベントに参加し、本事業を知った愛知県の一宮市立赤見小学校が、日本式教育を取り入れた「エジプト・日本学校」の10th Ramadan校と交流予定です。10th Ramadan校では、日本に倣い音楽で縦笛の教育を開始し、その活用も検討されています。幼稚園部門では、東京都港区立三光幼稚園が、エジプト・日本学校の幼稚園教師を対象に、日本の幼稚園教育に関する質疑応答セッションを開催くださる予定です。
◇昨年度開発した活動例のインドネシアとエジプトでのトライアル
昨年度に本調査研究事業で開発した特別活動を利用した全人的教育の事例を活用し、インドネシアとエジプトの学校でのトライアルも進める予定です。
◇他国からの関心について
WALS 2022での成功も影響してか、複数の国から特別活動を通じた全人的教育に関心を寄せていただくようになりました。具体的には、インド、サウジアラビア、マレーシアから、我々のチームに連絡がありました。調査研究事業としては、本年度が最終年ですが、来年度以降も続く息の長い取組となるよう、今から工夫していきたいと思っています。