日本型体育科教育の世界への展開 ~レッスン・スタディを活用したペルーの体育教員研修システムの構築~(2018年度公認プロジェクト:国立大学法人広島大学)

プロジェクトの背景や今までの活動紹介

ペルーでは、2017年から小学校の体育授業数が週2コマから3コマへと増加し、適切な体育授業を展開できる教員の育成が喫緊の課題となりました。このことに対し、これまでの我が国の国際貢献事業の影響もあり、日本型学校体育や授業研究(レッスン・スタディ)に関心を持つペルーの体育科教育関係者も増えつつあります。そこで、本プロジェクトでは、広島大学が中心となり、レッスン・スタディを活用した体育教員研修システムの構築を目指しつつ、ペルーの体育教師の能力開発に向けての支援を行うこととなりました。さらに、首都のリマのみではなく、地方都市においても、レッスン・スタディを用いた教員研修会を開催する事を試みました。まず、2018年度には、リマ市で教員研修会を開催すると共に、地方都市であるアレキパ市、クスコ市を訪問し、両市においても、教員研修会を実施できるよう準備を開始しました。そして、2019年度にはその二都市で教員研修会を開くこととなりました。

今年度の活動の具体例と成果

広島大学、広島県教育委員会、リマ市の体育専門家で体育科教育チームを結成し、2019年11月26日~30日にアレキパ市、クスコ市を訪れ、両市で初となるレッスン・スタディを活用した教員研修会を開催しました。今回の研修会では、日本の体育授業の紹介やレッスン・スタディについてのパネルディスカッション及び講義を行った上で、レッスン・スタディの⼀連の流れである「事前検討会―授業実践―事後検討会」の全てを日本チームで実演しました。授業実践では「バレーボール」と「アダプテッドスポーツ1」を題材とし、日本の体育教員が実際に授業を行い、事後検討会では、広島大学や広島県教育委員会の体育専門家が、授業の振り返りを行いました。

この研修会では、2都市の体育教員のほぼ全員が参加し、合わせて900人近い参加者となりました。また、体育教員に加え、教育省の幹部職員や両市の教育行政官、大学関係者らが参加するなど、波及効果の大きなイベントとなりました。これまで、ペルーでは、教員の評価のために、授業を観察するということはありましたが、教員相互の授業力を高めることを目的とし、授業を見合って検討するということが、とても新鮮だったようです。早速、レッスン・スタディ導入に向けて、両市とも取り組みはじめています。研修会後も、関係者・参加者との交流が続いており、今後のさらなる発展が期待できます。

1 障害者や高齢者、子どもあるいは女性等が参加できるように修正あるいは新たに創られた運動やスポーツ、レクリエーション

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日本とペルーの体育科教育専門家チーム

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アレキパ市での体育教員研修会

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パネルディスカッションの様子(アレキパ市)

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授業実践の様子(クスコ市)

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事後検討会の様子(クスコ市)

日本人自身が気付かない日本の教育の良さや、逆にペルーから学んだこと

今回のプロジェクトを通し、レッスン・スタディ、すなわち、教師同士でお互いの授業を見合ったり、ディスカッションをしたりして、授業を良くしていこうという日本の学校文化の素晴らしさを改めて強く実感しました。レッスン・スタディが、大きな予算投下を必要としない費用対効果の高い教育方法であること、さらには学校教員の同僚性の構築や関係機関とのネットワークづくりに重要な手段であることにも改めて気付かされます。

一方で、このレッスン・スタディを、定期的に、特に公的ベースで行おうとすると、教師の成長に繋がる反面、教師の新たな負担となってしまう点についても考えさせられました。ペルーでの展開を考えると、教師の負担が実際にどの程度あるのかという部分を抜きに話を進めることが出来ません。日本のやり方をそのまま展開することは、ペルーの学校教員の負担が大きくなる可能性もあります。本プロジェクトでは、日本のモデルを参考にしながら、ペルーで実施可能なレッスン・スタディをペルーの体育専門家と共に検討しており、日本でのものより少し簡素化されたレッスン・スタディシステムが開発されつつあります。このシステムこそ、教員の働き方改革が叫ばれている日本の教育界で求められているモデルになり得る可能性があると感じています。

今後の抱負や他国への展開の可能性等

レッスン・スタディを用いた教員研修は、今、まさにペルー全国に広がろうとしております。但し、体育という教科のみでは、広がりに限界があります。体育だけではなく他教科にも広がっていくことで、多くの学校で普及が実際に達成されるものと思います。

また、南米全体でも、レッスン・スタディはあまり実践されていません。ペルーでの展開が、南米諸国へ広がっていけば、多くの国々、地域の教育の質の向上に繋がっていくのではないかと期待しています。

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