ベトナムの教育機関に対する法学専門家派遣形態による法学教育の実施報告 ―実施からの学びを中心に―

私たちについて

私たち特定非営利活動法人アジア・環太平洋地域法律研究所(RILAP)は、日本の大学に所属する法学者及び日本の法曹が集まり、アジア・環太平洋地域の法律についての調査及び教育を実施している団体です。

法人として設立されたのは2018年8月ですが、任意団体としては10年以上の実績があり、ベトナムやカンボジアを中心に法律の調査及び教育を実施してきました。

2020年度EDU-Portニッポン応援プロジェクトに採択されて

RILAPは、活動のサステナビリティを高めることを目的にEDU-Portのプロジェクトに応募し、2020年度EDU-Portニッポン応援プロジェクトに採択頂きました。

採択当時は、RILAPの主たる活動の一つである、ベトナム等の教育機関へ専門家を派遣し、当該教育機関で法学教育プログラムを提供するプロジェクトを中心に企画しました。しかし、実施の段階になり、新型コロナウイルス感染症の影響により渡航が困難となったため、2020年度の活動は、これまでのように実際に現地を訪問し顔の見える中で授業を実施するという方式ではなく、オンラインで講義を実施することとしました。

(写真1:オンライン講義のフライヤー)

1回目の講義の実施

2020年度は2020年9月7日と2021年3月5日の2回に分けて講義を実施しました。

初回の講義では、RILAPとしては初めてのオンライン講義の実施であったため、具体的なメリット・デメリットがイメージできていなかった面があったと思います。しかし、結果として100名以上の方に参加して頂くことができ、一部、日本からの聴講者もいたことは、想定外の良い事象でした。他方で、オンラインで集中することができる時間は実際の講義より短く、講義時間を短く、かつテーマに一貫性を持たせる必要があることを認識したのは、初回の講義での大きな学びだったといえます。

(写真2:実施風景)

2回目の講義の実施

1回目の講義での反省点を活かし、講義の時間を短くし、テーマに一貫性を持たせるよう検討した上で、2021年3月5日に2回目の講義を実施しました。1回目の受講者は大学院生が中心でしたが、2回目は大学学部課程に入学したばかりの学生が中心でしたので、講義の内容をどのように構成するかが課題となりました。

講義を提供する予定の専門家間では、日本の法制度の形成過程という歴史を含めて提供するのが良いのではないかという仮説のもと、基本法たる民法から、会社法、独占禁止法、労働法という産業に関する法律を講義内容に含め、ベトナムとの対比と、日本法の発展の過程を伝えられることを意識して講義を行いました。

実施からの学び

2回目は、大学学部課程の新入生が主な受講者であったため、どのような反応があるか予想できないところもあり、不安もありました。しかし、実際に講義を実施してみると、多くの質問が出て、伝えたかった内容が届いていることが感じられました。

ベトナムの法学教育は、条文として明文をもって定められた制定法の教育に重点が置かれ、明文の知識の教育が重視されます。RILAPでは、実定法の知識の重要性とともに、その背後にある法理論の原則を考える楽しさや必要性を伝えられたらと考えて講義を実施しました。実際の講義では、日本が開発の階段を上り、法制度を整備していった先に現在の法制度があることを説明した際、学生から、日本の法律の発展の過程と制度の趣旨を考えれば、ある領域にこのような法適用があって良いはずだが、日本ではそうなっていないように見えるのはどうしてか、といった質問が提起されました。学生の質問は、条文の解釈という点ではなく、法の成り立ちから問題提起をするもので、RILAPで伝えたかった内容であると同時に、日本を外から見た日本法の成り立ちや評価を知ることができて、私たちにとっても考えさせられるべきものが多いものだったと感じます。

このように、講義を行うことによって、一方的に知識を提供するものではなく、私たちが理解する日本の法制度やその成り立ちを、異なる新鮮な視点から検討してもらうことで、自分たちでは気がつくことができない点を考えることができるもので、私たちにとっても学びの多い活動だったといえます。

2021年度も、新型コロナウイルス感染症の影響が続き、ベトナム等に渡航できない日が続きますが、RILAPでは、この経験を活かして、より双方にとって学びの密度が高い活動を継続していければと考えています。

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