信州大学が主導する調査プロジェクトでは、日本、ラオス及びネパールの教員養成校等における教材開発(ESD×保健教育)の実証研究を行っています。2021年度は、SDGs及びCOVID-19に資する教材として、4つのトピック(COVID-19、包括的な性教育、水衛生及び生活習慣病)に関する教育教材、教員研修用資料、教師用指導案(日本版及び開発途上国版)を作成しました。教材開発とそれを用いた授業研究を通して、SDGsの実現に寄与する人材育成を目指します。
COVID-19に関する教材
教材開発に当たっては、健康問題をエントリーポイントとして、ESDに取り組むための教育教材の開発を進めています。日本や世界で生じている健康問題を取り上げて学ぶことで、その問題の発生に関連している貧困や格差の問題とそのメカニズムを理解し(わかる)、 「誰一人取り残さない」世界の実現のために、自分達がなすべきことについて考え、具体的な行動を導く(できる、伝えられる)ことをねらいとしています。
学習活動の構成・設計においては、持続可能な社会づくりの構成概念である以下の6つの視点、1. 多様性(いろいろある)、 2. 相互性(関わりあっている)、 3. 有限性(限りがある)、 4. 公平性(一人一人大切に)、 5. 連携性(力合わせて)、 6. 責任制(責任を持って)が組み込まれるように配慮しています。また、学習活動を通して、ESDの理念において提示されている、持続可能な社会づくりのための課題解決に必要な以下の7つの能力・態度(1. 批判的に考える力、2. 未来像を予測して計画を立てる力、3. 多面的・総合的に考える力、4. コミュニケーションを行う力、5. 他者と協力する力、6. つながりを尊重する態度、7. 進んで参加する態度)を身に付けることができるように構成しています。
具体的には、COVID-19では、感染症に関する予防教育のみならず、感染症の蔓延によって生じる差別や偏見の問題、ワクチン接種の問題、感染症の蔓延の長期化によるメンタルヘルス問題への対応などについて教材化を進めています。包括的な性教育では、月経教育やライフプランニングなどについて教材化を進めています。また、水衛生については、感染症対策の一方策としての手洗いの実践、またその実践を促すためのナッジ理論を用いた啓発活動の企画、そして水資源の利用の不平等の問題などを取り上げています。さらに、生活習慣病では、肥満と痩せの二重負荷の問題、などについて教材化を進めています。
WASHに関する教材
CSE(包括的な性教育)に関する教材
2022年の1月には、日本の教育現場の教員を目指す信州大学の教育学部の学部生及び大学院生を対象として、開発した教材を用いたオンライン授業研究を実施しました。オンラインによる授業研究を行うことで、信州大学のみならず、大阪大学、琉球大学等から、人類学、公衆衛生学、ジェンダーなど専門性の異なる教員や大学院生が、多角的な視点から議論を行うことができました。また、日本の現職教員や開発途上国のフィールドで豊富な活動経験のある方等が参加することにより、日本型(日本の特長を生かした)の保健教育とは何かについて深い議論を重ねています。
また、現在、ラオス及びネパールの現地研究者と協働して各国版の教材開発を実施しています。日本とラオス、日本とネパールといった2国間での協議に加えて、日本、ラオス、ネパールの3カ国での協議を行うことにより、教材開発において配慮すべき各国の文化的背景や社会体制の影響についての理解の深まりを実感しています。毎週のように行われるオンライン協議では、3カ国から計15名近くの参加者を得て、白熱した議論が展開されていますが、渡航が制限された状況下で、オンラインであるからこそできる充実した時間であると感じています。今年は、それぞれの国での対面での協議が再開されることを楽しみにしています。