カンボジア教育改革
カンボジアでは、コロナによりすべての活動が停止した。日本、シンガポールなどはオンライン教育で急場を凌いだが、その手立てはカンボジアにはない。コロナ禍で「ICT活用」のできない状態は致命的である。
カンボジア教育・青年・スポーツ省は本腰を入れて4月よりネットワークを通した学びを推進しており、大臣自らが研修会を積極的に開催した。このような中、EDU-Portニッポン2020年度公認プロジェクトを始動させた。
国際協働学習に挑戦
EDU-Portニッポンパイロット事業を通じて、2017年からカンボジア教員養成大学2校と連携を深めている。日本福祉大学の主催する英語プレゼンテーション大会、第22回ワールドユースミーティング(WYM)にこれら大学から3チームが参加した。ネットワークの一番の醍醐味は世界と即座に繋がることである。4月から9月26日の大会まで、毎週ZOOMの授業セッションを開催した。カンボジアにとっては新しい教育手法の実践である。
カンボジアと日本の学生がつかんだもの
カンボジア側
・ICT教育とは「協働」の達成に効果的であり、EDU-Techはコラボレーションを推進する。(Line、Zoom, Google Classroomなど)
・協働学習はコラボレーション、異文化理解を促進する。
・タスクベースな学びは、達成感と英語活用への自信を得る。
日本側
・途上国に対するステレオタイプが打ち破られた。
“力なくすべてが停滞”――>”貧しいが力強い”(史料YouTube参照)
・カンボジア学生の英語活用能力、ICT技術、将来への夢に接し、刺激を受けた。
・意見の相違、葛藤、協働制作を通してコミュニケーションの取り方を学んだ。
双方の学生がつかんだもの
・関係は作り上げるもの。「協働プレゼンテーション」でカンボジアの学生チャイ・イーさんは語った。「カンボジアは経済から見て圧倒的に劣っているが、人間の質として劣っているわけではない。」このような言葉は日本側の学生を驚かせ、考えさせた。「貧しい国」を見下ろす意識は日本の学生のみならず、多くの人が持ちがちである。その思い込みが払しょくされた。
カンボジア日本学生協働プレゼンテーション(半年間の交流後)
・文化が異なること、すり合わせること、戦うこと
「日本の学生はバイトばかりで..(集中力に欠ける)」時間調整には苦労したようである。学生は勉強するものであるというカンボジア学生の考え方とバイトに追われる日本の学生が「英語での協議」で課題解決に挑んだ。
英語は使うもの
「知識は持つが運用がままならない。」アジアの英語は運転免許のペーパーライセンスの如しである。ZOOMを通したやり取りでは、自分で言葉を発し、作り上げていくことが組み込まれている。「Task-Centered Instruction」目標達成のため、積極的に活動し、成果を出す方法である。
この理論を元に、メンターである双方の大学の教員たちは、コーディネータとなって国際連携の授業ネットワークを活用し推進した。
決定的な違い
英語プレゼンテーションにおいては、堂々と大きな声で、自信をもって話すことが大切である。カンボジアで教員を目指す学生たちは、2年間で14週の教育実習を行う。日本では小学校免許の場合4週間である。人前で話す訓練はカンボジアに一日の長がある。また、国を代表して参加している意識もプレゼンテーションの姿勢に表れている。
EDU-Port活動報告会(シェムリアップ)
2020年11月第一週に新学期に合わせて、現地で報告会が開催された。約300名の全学生と職員の前で、英語プレゼンテーションの作成方法、ICT活用方法、そしてWYMでのプレゼンテーションが披露された。世界と学ぶ活動、新しいICT教育の紹介が行われた。
日本の教育の国際化
「危機はチャンス」の動きの中で、日本の学生との協働授業を展開した。日本側日本福祉大学学生170名、カンボジア側2大学の学生が交流、協働プレゼンテーション作成、国際オンラインプレゼンテーション大会での発表を行った。
テーマは”SDGs4.あなたの取り組み”であった。「カンボジアは最貧国というイメージを持っていた日本側学生にとっては真摯に協働に取り組み、英語を駆使し、国の教育の方向を指し示すカンボジア学生の姿は、「新しいカンボジア・モデル」となった。日本側学生は現地小学校の英語の授業を支援するコンテンツ「簡単英語」を今も現地に送っている。
日本製英語教材を使った教材制作
プレゼンテーションを通じた日本とカンボジアの学生の協働学習に加えて、カンボジアの2つの教員養成大学において、外国語の学習教材として完成度の高い日本製の英語教材「小学校英語 SWITCH ON!」※注 を活用し、「Learning Site」コンテンツの製作をすることとなった。
「Learning Site」コンテンツは、ネットワークを通した「体験型」授業の実施を想定した、動画クリップであり、英語とクメール語による説明がなされている。本教材は、教員養成大学に在学する学生と、現地を訪問しボランティア活動の経験のある、SDGs4(教育の質の向上)に「貢献したい」日本の学生との協働で、制作されつつある。
今も続くEDU-Port活動
今、EDU-Portニッポンパイロット事業を発端とした交流授業は企画され、現在も毎月継続して続けられている。
11月20日はNew Educational Expoで、カンボジアのRatha(ラタ)先生からEDU-Portニッポンパイロット事業の報告とカンボジアのICT教育の取り組みが報告された(資料参照)。また11月22日には、日本の教育工学研究者からのオンライン講演、関西大学吉田教授”CEFRとデジタル教材”が実施された。
日々、フル稼働である。
注:「小学校英語 SWITCH ON!」は、大阪府教育委員会と株式会社mpi松香フォニックスが共同開発したプログラム「DREAM」(大阪府内向け)を、大阪府以外で販売している商品です。
関連資料
カンボジア・日本学生の協働プレゼンテーション
WYMホームぺージ
http://www.japannet.gr.jp/w2020/
カンボジアICT改革 NEE東京 (Ratha 教諭レポート)
http://www.kageto.jp/edu-port/2020-NEE-Ratha.docx
文責 日本福祉大学 影戸 誠