■ 全23回リコーダー研修完了
エジプトでは、現地の教育関係者の間で社会性・協調性および規律といった非認知能力の発達を課題として挙げる声があり、現在、新カリキュラムでの教育を推進しています。当社では、この新カリキュラムをサポートすべく、エジプト教育・技術教育省との協働を通じ、リコーダーを使った日本型器楽教育の教員と児童・児童同士の、インタラクティブな授業展開を目指した教員研修をこれまでに全23回実施完了しました。現在は日本から修了証をお送りする準備をしており、教員の更なるモチベーション向上を図っていきます。
<工夫した点>
以前、日本の関係者と意見交換をさせていただいた際「先生同士で行う授業研究も日本らしい特徴では?」というアドバイスをいただいたことがあり、今回の研修の中で日本で実施されている授業研究の要素も取り込みました。教員が生徒役を務めてロールプレイングを実施することで、生徒の立場に立って「今の指示がすごく分かりやすかった」「もう少しこうしたら分かりやすかったのでは」といった意見が交わされていました。具体的に実際のクラスにいるような生徒を想定して声掛けを再現し、教員役が投げかけた言葉があまり適切ではないと「そんな言い方では僕はやらないよ」などと声の掛け方も先生同士で考え合っていました。こうしたロールプレイングは現地では珍しく受け止められ、意欲的に研修に参加してくださり、深い学びに繋がっていることを実感しました。こうした小さな積み重ねが教育の質の向上に繋がっていくものと考えています。
■ リコーダー授業開始
研修を終え、ついに2021年11月からEJSパイロット校9校337名の児童に対してリコーダーの授業が開始されました。大都市に集中せず東西南北に偏在した学校をパイロット校として選定している点も意義があるとの声をいただいております。
(写真提供: EJS 10th of Ramadan校 教員:Ms. Nora Adel)
他教科では正解は1つしかないものが多く、正解が出されるとそこで終わってしまいます。しかし、音楽の表現の仕方や解釈には正解が無いので、児童の皆さんからたくさんの意見が出され積極的に授業に参加する様子が見受けられます。以前は児童に意見を求めることはあまりなかった先生も、今ではファシリテーターのようにたくさんの児童の意見を聞いてくださり、双方向での授業展開が確実に行われています。ここで、現地から届いた現場の声をご紹介したいと思います。
<EJS教員 Mohamed氏のコメント>
私にとってリコーダーを学んだことも演奏したことも児童たちに教えたことも無く全く初めてのことでした。しかし研修のお陰でリコーダーを演奏することもできるようになり、またリコーダーを使った授業ができるようにもなりました。本当に感謝しています。
<小学3年児童のAli Ibrahim Algoharyさんのコメント>
リコーダーの音が美しく、鳥の鳴き声に似ていて面白いです。リコーダーを演奏したり、音楽を聴いたりしながら、音楽の授業を楽しんでいます。
<ESJスーパーバイザー大辻晶子氏のコメント>
本事業の立ち上げでは、エジプト国の先生方の新しいものを取り入れていこうとする意欲に感銘を受けました。研修や授業を通して、文化や宗教などの違いにより、同じ音を聞いても受け止め方や感じ方が異なることが分かり、音楽の表現方法には正解が1つではないということを改めて感じました。国や環境、文化によって、人の考え方や受け止め方が違うことにも通じると思うので、様々な価値観があることへの理解を深め、お互いに認め合い尊重し合えるような教育を日本での教育でも活かしていきたいと思います。
私たちも「音楽に関わらず人の考え方や受け止め方が違うことに通じる」という点に改めて気付かされました。
(写真提供: EJS 10th of Ramadan校 教員:Ms. Nora Adel)
■ 非認知能力の計測手法の検討
特定非営利活動法人東京学芸大こども未来研究所と協業し、3つの手法を用いた非認知能力の計測手法の検討も開始しました。1つ目の手法、リコーダー授業導入前後で同一の質問紙調査を実施し比較検証を行います。実験群10校、統制群10校で授業開始前の質問紙調査を終えました。現在は授業が開始されたため、2つ目の手法、リコーダー授業を全て録画し「授業風景からの質的検討」を行っています。3つ目の手法としては、1年間の授業を終えたあとにリコーダー授業を実施した教員へのインタビューを実施、教員の発話内容をカテゴリ分けし、その分類や関係性を精査する予定です。
(写真提供: EJS 10th of Ramadan校 教員:Ms. Nora Adel)
エビデンスを集め分析しながら、音・音楽、そして楽器を使った活動を通じて、自分らしさを育み、互いに尊重しながらその体験を自分だけのものとせず他人と分かち合い共感できるような活動にすべく、よりいっそうの研鑽を積んでまいります。
__________________
ご参考:スクールプロジェクトスクールプロジェクト – ヤマハ株式会社 (yamaha.com)