2017年2月24日(金)文部科学省にて、「平成28年度EDU-Portシンポジウム」が開催されました。
EDU-Portシンポジウムでは、今年度の総括及び来年度の事業運営に関する説明に加えて、EDU-Port公認プロジェクト・EDU-Port応援プロジェクト採択団体からの今年度の成果報告、パネルディスカッションの説明を行いました。本シンポジウムは、文部科学省のほか、外務省、経済産業省、国際協力機構、日本貿易振興機構などの関係省庁、政府系機関、及び、教育関連の民間企業等から構成される「日本型教育の官民協働プラットフォーム」の一環として開催されたイベントであり、ご関心のある教育機関・企業などから多数のご参加をいただきました。 本シンポジウムには、200人ほどの皆様にご来場をいただきました。(以下の各登壇者の役職等は、シンポジウム開催時点のものです)
■ 開会挨拶
槍田 松瑩 <株式会社三井物産顧問、学校法人国際大学理事長>
- 事業開始より半年が経過し、その間にパイロット事業に参加している企業の成果が今日明らかになります。多くの成果が出ていると聞いており、発表を楽しみにしています。
- パネルディスカッションでは、教育の海外展開に造詣が深い有識者の議論の一端を紹介できると思います。
- 各国の大使館の方には、日本のこれまでの教育事業の経験を、それぞれの国の成長の一助としていただきたいです。
■ 平成28年度事業の報告
匂坂 克久 <文部科学省 大臣官房国際課長>
- 本事業の背景は、近年、諸外国の首脳や教育大臣等から我が国の教育への高い関心が示されていることにあります。
- 諸外国における、それぞれのニーズに合った日本型教育の輸出が本事業の目的であり、現在、日本の教育の海外展開のモデルケースをつくろうとしています。諸外国との信頼関係、日本国内での教育機関との連携をもとに活動を行っています。
- 事業としては、第一に国別の分科会をもうけ、国別のニーズの明確化を検討しました。具体的には、インド、ベトナム、タイのそれぞれの国について、それぞれ三度の分科会を開催しました。来年度については、中東やアフリカへの展開を、外交日程と併せて進める予定があります。
- 第二に、国際フォーラムを開催しました。タイの教育省が主催するフォーラムに、日本パビリオンを設置し、日本の教育を紹介しました。
- 第三に、パイロット事業が挙げられます。費用支援を行う公認プロジェクトを5件、認定のみをする応援プロジェクトを9件採択しており、これらプロジェクトの詳細が、本日の報告で明らかになります。
■ 公認プロジェクト報告概要
「在外教育施設(日本人学校)を拠点とする日本型教師教育の国際展開モデルプロジェクト」【タイ】<国立大学法人東京学芸大学>
- 本事業は、在外教育施設(日本人学校)を拠点として、授業研究(Lesson Study)を日本型教師教育として国際展開し、各国のニーズに合致した教師の協働システム構築の一助を担い、同時に、海外の目を通して我が国の授業研究を客観的に見つめ直し、その特徴・価値の充実を図ることを目的として実施しているものです。
- 2016年度は、タイ・バンコク日本人学校と協議して事業実施拠点としての役割と機能を明確化し、共有しました。また、コンケン大学と連携してタイ現地校でのモデル事業実施の可能性を探りました。今後は、 授業研究の国際展開をさらに図っていきます。
「子どもの主体性を培う『日本型防災教育モデルBOSAI』を用いた安全で安心な学びの環境づくり支援」【ネパール】<国立大学法人広島大学>
- 本事業は、ネパールの子どもたちが、自分たちの力で「安全で安心な学校環境づくり」に貢献できることを体感し、防災への理解を高め、生きる力を実践的に身につけることを目的として実施しているものです。
- 2016年度は、ネパール・ダディン郡の2校でBOSAIのトライアルを実施しました。両校合わせて約60名の児童・生徒、保護者、教員が参加し、両校のBOSAIマップが作成され、危険箇所、避難所を確認しました。また、BOSAIマップの結果を学校防災計画に反映し、行動へつなげました。
「インドにおける日本型職業訓練事業」【インド】<株式会社 学研ホールディングス>
- 本事業は、インドの職業教育の課題に応えるべく、国内の専門学校やインドの人材派遣会社と共同立案したものです。日本型の優れた職業訓練を通じて質の高い労働力を育成し、インド社会に「生きる力」を提供することを目的として実施しています。
- 2016年度は公認プロジェクトとして3回の現地視察を実施しました。複数のパイロット校候補都市において、州政府に対する支援要請、現地ITIや地元企業への視察、現地日系企業の「日本型職業訓練」需要に関するヒヤリングなどを行い、第1校目の候補都市を絞り込みました。今後は中央政府の関連省庁とも交渉を進め、運営体制、事業計画等を精査確定させ、2017年度中にパイロット校を開校できるよう準備を進めます。
「初等義務教育・ヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業」【ベトナム】<ミズノ株式会社>
- 本事業の目的は、「ヘキサスロン」を公立小学校へ導入することにより、ベトナム初等教育における体育授業の課題解決に貢献し、加えて中長期的に「体力の向上」や「判断力・コミュニケーション能力の向上」を目指すものです。
- 2016年度は、現地代理店社員と小学校教員を対象とした研修で、運動スペースが限定的である中、1クラス50名の児童をスムーズに運動させるために、運動メニューの導入数や用具の配置、動線などを検討してもらい、現場ですぐに導入できるように指導をしました。児童への授業では、従来の授業中の平均歩数が392歩であったのに対し、「ヘキサスロン」授業では785歩と2倍の運動量を確保することができました。
「初等中等義務教育の音楽教科への器楽教育導入及び定着化事業」 【ベトナム】<ヤマハ株式会社>
- 本事業では、ベトナムの音楽教育の質の向上、SDGs4の実現への寄与、楽器演奏の需要創造を目指します。
- 2016年度は、ハノイでのリコーダークラブ活動を開始しました。また、2018年度からの学習指導要領への器楽教育採用に向けた取組みを実施しました。
- 2017年度は、リコーダークラブ活動の三都市展開を目指します。
■応援プロジェクト報告概要
「埼玉版アクティブ・ラーニング型授業による授業改善のための教員研修支援プロジェクト」【フィリピン】<埼玉県教育委員会>
- 本事業では、フィリピンの教育行政関係者及び教員が、知識構成型ジグソー法(KCJ法)を用いた指導方法等を学び、フィリピンの生徒にKCJ法を用いた授業を行うことができることを目的とします。
- 平成28年度は1月に第1回の専門家派遣を実施し、フィリピン、セブ市の教育行政関係者にKCJ法の体験実施、及びパイロット校の視察(1校)を行いました。KCJ法の有効性を教育行政関係者に認識してもらい、次年度以降の計画についての協議もスムーズに行えました。
「ミャンマー国の工科大学への日本方式実験室安全教育の普及」【ミャンマー】<国立大学法人愛媛大学>
- ミャンマーの技術者養成機関である工科大学に、日本式の安全衛生教育と安全衛生管理体制を導入することにより、基本的な安全・衛生・環境に関わる安全文化を醸成することを目的とします。
- 2016年度は、6月30日にタンリン工科大学にて実験室の安全衛生についてセミナーを開催しました。10月18日~21日までタンリン工科大学の教員1名を愛媛大学に招聘し、愛媛大学で行われている日本式の「安全衛生管理法」の研修を実施しました。また、愛媛大学の大学院で留学生対象に使用している安全衛生教育教材をミャンマーの事情に合わせ修正しました。
「『福井型教育の日本から世界への展開』スタートアップ事業」【アフリカ】<国立大学法人福井大学>
- 本事業では、日本型学校を支える公教育システムの中でも、特に優れた成果を示している福井の教育システムを世界発信することにより、教育を通じた諸外国との強固な信頼・協力関係の構築、日本の教育機関の国際化の促進、日本の教育産業等の海外展開の促進を目指します。
- 2016年11月JICAからの委託事業として福井大学が実施する「授業研究による教育の質的向上」研修に参加するエチオピア・マラウイ・ナイジェリア・ルワンダ・ウガンダの研修生を、2017年2月に福井大学教職大学院が実施するラウンドテーブルに招聘し第1回フォローアップ研修を実施しました。また、フォローアップ研修の打合せ及び現地支援のため福井大学及び関係機関のスタッフをアフリカ諸国に派遣する予定もあります。
「モンゴルにおける日本型宇宙教育とIoT / ICT 技術の海外展開・運用人材育成、高専教育連携」【モンゴル】<学校法人千葉工業大学>
- 本プロジェクトでは、モンゴルの広大な大地・希薄な人口密度を利用し、成層圏気球実験等により「生徒・学生の興味関心を引き出す」「複数人からなるプロジェクトを通じ、専門にとどまらず協力して事業を成し遂げる」能力の育成を目指します。
- 今年度前半に実施した成層圏気球実験に基づき、モンゴルの生徒・学生を対象に奨学生を募集しました。また来年度以降の実験方法に関するアイデアの募集を行いました。
「知・徳・体 日本型教育の連携、フィリピン三大学をキーステーションとする教員研修計画」【フィリピン】<日本教育工学会>
- 本事業は、世界で取り組む21世紀スキルを共有し、日本型「アクティブラーニング」、教室デザイン:対話的な学びの実施支援 (大学+民間)、E-Learning型支援、現地教育委員会と連携・教員研修を行うことを目的として実施したものです。
- 2016年12月にオンライン講義を実施しました。2017年1月25日~2月1日に、教員研修(80名)、「協働学習、アクティブラーニングの実際とその手法」、高校生に向けてのモデル授業(90名)、アクティブラーニングの教室デザイン、PCとプロジェクタを使った教室デザインなどを実施しました。
「タイ人大学生ビジネス人材育成事業 ~日本型ビジネス教育の学びシステムの構築~」【タイ】<HR Japan ヒューマン・リソーセス・ジャパン>
- 本事業は、タイ大学生の人材育成・採用へ繋げる情報を集約し、日本企業の人材確保、大学生の雇用促進、人材活用に直結する先駆的な取り組みをシステム化することを目的として実施したものです。
- 2016年度に、タイ教育関係機関との連携構築及び大学の拠点化形成、コンケン大学でのジャパニーズワークショップ(JBW)の開催などを実施しました。
日本型学習プラットフォーム「みっけ」のアジア展開【タイ】<株式会社朝日新聞社、株式会社博報堂>
- 本事業は、アジア各国の社会課題である「教育コンテンツ不足の解消」を図ることを目的のひとつとして実施したものです。タイを皮切りにアジア6 か国(インドネシア、ベトナム、インド、マレーシア、台湾、ミャンマー)での事業化を目指します。
- 活動成果として、学習誌・みっけを配布し、各種出張授業などを実施しました。今後、他アジア諸国への水平展開を目指します。
「日本型部活動の海外輸出」【タイ】<スポーツデータバンク株式会社>
- 本事業は、今回、日本で行っている「部活動」の仕組みをタイの学校・子ども達へ提供することで、スポーツを通じた生活及び運動習慣のサポートを目的として実施したものです。
- 現在、日本の小学〜高校で行っている「スポーツテスト」実施を企画し、現地企業の協力の元、実施に向け学校の選定を行っています。今後の展望としては、90分の授業の中に体力測定などの運動を行い、習慣化させることで、日本式種目特化型部活動の導入を目指します。
「ベトナム人日本語学習者における語彙定着プログラムの開発準備」【ベトナム】<株式会社ベネッセコーポレーション>
- 本プロジェクトは、初級日本語習得に大きな課題を感じるベトナム人学習者には、語彙力の定着を徹底していくことによって学習のつまずきを解消し、学習初期段階の履修脱落者数の削減と、ベトナム人学習者の日本語習得総コストの軽減を目的として始めたものです。
- 2016年度は、JLPT各グレード別合格者の調査報告及び学習者の在籍別報告を併せて実施しました。2017年度は、教材β版の効果を検証し、その結果を報告します。
■パネルディスカッション
●ファシリテータ
鈴木 寛 <文部科学大臣補佐官、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 教授>
●パネリスト
上月 正博 <独立行政法人国立高等専門学校機構理事>
中村 雅治 <公益財団法人海外子女教育振興財団 理事長>
西沢 利郎 <東京大学公共政策大学院特任教授>
若井 英二 <株式会社海外需要開拓支援機構専務執行役員>
- 今回のシンポジウムを通じ、いくつかの団体に共通する課題があることを発見した。今後うまく団体間で情報共有をしていただきたい。
- 海外展開を行うことは、自分たちの本来の姿やあり方を見直すきっかけとなる。高専を海外展開させた時も、高専の骨格について考えた。また、事業展開は、国際協力の枠を越えるべきである。いつかは自分たちに効果が波及するものであると考えている。
- 海外展開は、日本で完成した物を輸出するのか、それとも日本のノウハウを輸出してローカル化させるのかの2つに分けられると思うが、今後日本は後者に力点を置くべきであると考える。例えば、東京学芸大学の事業はバンコク日本人学校を拠点としており、事業の継続性及び成果の評価という点において意義が大きい。このように来年度以降は、プロジェクト間で協働するとともに、現地からフィードバックを受けながら事業を進めていただきたい。その際に、日本のアセットである海外の日本人学校などを活用していただきたい。
- 日本型教育が強みとする分野には諸外国からの関心が高く、多様なニーズと期待があるが、教育サービスのマーケットでは、他国との競争が熾烈化しつつある。日本型教育の強み、特徴的な要素を加えたものは成功しやすいはず。現地のニーズに応じ、現地の人を巻き込んだ事業展開が成功の秘訣となる。
- 国ごとのニーズや情報を効率的に共有する仕組みがあれば役立つ。また、情報共有の場を設けることは事業者間のネットワーク拡充に資する。
- 今後、日本の学生なども巻き込んだ形で海外展開ができれば日本国内の教育にも良い波及効果が期待できる。
- 現地に進出している日本企業のニーズに応えるビジネスモデルがあっても良い。また、モノをきっかけとして日本の教育に関心を持ってもらうことが重要である。教育展開事業は、ただインバウンドを増やすのではなく、日本のマーケットを拡げるという意味で価値がある取組であると実感した。今後もEDU-Portの参加者を増やしていただきたい。
以上